『情報の呼吸法』(津田大介著)を読んだので感想を書いてみました。
結論から言うと、オススメです。
カバーから表紙から本文から、すべてのページの薄い水色が印象的なこの本。
とても読みやすく、普段から Twitter や Facebook などに触れている人であれば、あっさりと読めてしまうのではないかと思います。
差し当たって目新しいことは書いていないと思うけど、ただ逆に、いわゆるソーシャルメディアとその周辺の「今」がうまく体系的にまとめられていて、そのことに価値がある本だなぁ、と思いました。
もちろん「ソーシャルメディアって何じゃらほい?」という人にとっても、何となくの概念みたいなものは掴めるようになっていると思うので、世の中の流れを知っておきたい人は読んどいた方が良いと思います。
(その代わり技術的なことはほぼ書かれていないので、制作者向けではないかも知れません)
あと、「ソーシャルメディア」と言いつつ、内容はかなり Twitter 寄りです。
まぁ論旨はそこではないので、別に良いんですけどね。
情報を「呼吸」するということ
『情報の呼吸法』というネーミングが秀逸。
「情報をインプットするだけじゃなくて、アウトプットしていくことが大事だよ。それ(情報の呼吸)を繰り返していくのが今の時代だよ」ということが、このタイトルからだけで読み取れます。
実際、本文にもアウトプットの重要性を説く場面が多く、そしてそれは「よりよい情報を得るため」だと訴えます。
それはまさにその通りで、人は面白くて役に立つ情報を発信する人に注目するし、面白くて役に立つ情報はそういう人の元に集まってきますからね。
もちろん取捨選択は必要だけれど、そもそも数が集まらなければ始まりません。
Twitter での情報の集め方や、フォローの方法(ヒント)についてもいろいろと書かれているので、いまいち分かっていない人は参考にしてみてはいかがでしょうか。
参考文献について
あと、多くの参考文献も紹介されているのが地味に嬉しいところ。
最近の著書だけかと思いきや、ケインズの古典(?)を紹介してみたり。
残念なのは、そうした文献の一覧がまとめられていないこと。
せっかくなので僕の方でまとめてみました(本文の下に箇条書きしてあります)。
抜けがあったら指摘ください。
»『情報の呼吸法』で紹介された書籍など
当たり前なんですが、メディアに身を置いて生きている人は、古典だろうが最新刊だろうが分け隔てなく情報収集してるんですよね。
ほとんど Twitter でしか目にする機会がない人だけに、ちょっとだけ新鮮な驚きがあったのでした。
(まぁ、もっと Ust とか見ろって話なんですけどね)
「実名」と「ハンドルネーム」
この本の中で、特に印象的だった部分があったので、少し長いですが引用します。[P.126、127]
僕が推奨しているのは「ゆるやかな実名性」です。名前は漢字ではなく、ローマ字表記で書く。会社名は出さず、「広告業界で働いています」「メーカーで営業職やってます」と業界を明かすぐらいで留める。いきなり実名を公開するのではなく、同じ業界にいる人が見れば「あの人かな」と見当がつくくらいで最初は始めるといいでしょう。
(中略)
しかし一般論で言うならば、ここ数年でハンドルネームより実名でやったほうがメリットが上回るという転換が起きつつあると感じています。ハンドルネールでもいろいろな人とつながれるかもしれませんが、実名のほうが顔が見える分信頼できますし、相手に興味を持つきっかけにもなります。
(中略)
印象として、実名公開によりデメリットのほうが多いと思う人はあまりソーシャルメディアには向いていないと思います。
まったく同意ですね。
同じことを感じている方も多いんじゃないでしょうか。
特に Facebook が普及し始めたあたりから、この転換は急速に進んでいるような気がします。
これまで、インターネット上での遣り取りは「バーチャル」と称されることが多かったように思います。
そして、「バーチャル」の世界では、「リアル」の世界とは別の名前を使うことが慣習でした。
しかし、昨今そのような表現はほとんど聞きません。
上記の引用文は、「リアル」と「ネット」の距離感がほとんどなくなってきていることを表しているんじゃないでしょうか。
「リアル」と「ネット」を分けて考えること自体が、もうすでにナンセンスなのかも知れませんね。
あと、「実名」というと対義語には「匿名」が使われがちなのですが、この本では見当たりませんでした。
これは正しい姿勢だと思います。
「実名」の対義語は「偽名」(もしくは「仮名」)ですからね。
勘違いしてる人も多いですが「匿名」じゃないんですよ。
(ちなみに「匿名」の対義語は「記名」です。→参考:だから匿名の対義語は記名だと何度言えば | とりあえず死ななくて良かった人のブログ)
この本では「ハンドルネーム」が「実名」の対義語として使われているのかなぁ、と思いました。
僭越ながら、さすがです。
「今」と「この先」の話
「自分はこういうことをしてきた」とか「こういうことをしている」とかいうことも多かったけど、それと同じくらい「こういうことをしようと思っている」ということも多く出てきました。
つまり、「過去にやってきたのは、今しているこれのためだったわけで、今これをしてるのは将来こういうことをしたいから」ということが至る所に書いている訳です。
それはまぁ様々あるんですが、個人的に期待したいのは「政治メディア」と呼んでいるもの。
無料化を目指しているそうで、そのためのマネタイズを有料メルマガなどで実践(実験)しているそうです。
いやぁ、楽しみですね。
まとめ
この「津田大介」という人は、(ソーシャル)メディアをうまく「使って」いるなぁ、と思います。
どっぷりその世界に入り込んでいるのかと思いきや、ちょっと引いたところから見てるんでしょうね。
で、良いところだけをちょいちょいと(あるいはガッツリと)つまんで、良いように組み合わせて使っていく。
そういう意味で、たぶんこの人は「メディアの人」というより「情報の人」なんだろうな、という気もしますね。
情報を伝える(&入手する)手段がどうであろうが、目的が達成できればそれでいいや、みたいな。
だから、いわゆる「ガジェット好きのアーリーアダプター」ではないんだと思います。たぶん。そうだったらごめんなさい。
この先もし Twitter が廃れたり下火になったりしたら「Twitter? ダメダメあんなの」って平気で言えるんですよ、こういう人は。
で、それは正しい姿勢だと思うし、言えなきゃダメだと思います。
えーと、「まとめ」とか言っといて全然まとまらなくてすいません。
そんなワケで今後に期待です、ハイ。
『情報の呼吸法』で紹介された書籍など
書籍
- 『思想地図β vol.2 震災以後』(東浩紀編、合同会社コンテクチュアズ、2011年)(P.22)
- 『Twitter社会論 ~新たなリアルタイム・ウェブの潮流 (新書y)』(洋泉社、2009年)(P.24)
- 『だれが「音楽」を殺すのか?』(翔泳社、2004年)(P.41)
- 『雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉』(ケインズ著、岩波文庫、2008年)(P.78)
- 『雇用、利子および貨幣の一般理論〈下〉』(ケインズ著、岩波文庫、2008年)(P.78)
- 『要約 ケインズ 雇用と利子とお金の一般理論』(ケインズ著、山形浩生訳、ポット出版、2011年)(P.78)
- 『日本の思想』(丸山眞男著、岩波新書、1961年)(P.78)
- 『グーテンベルクの銀河系―活字人間の形成』(マーシャル・マクルーハン著、みすず書房、1986年)(P.87)
- 『メディア論―人間の拡張の諸相』(マーシャル・マクルーハン著、みすず書房、1987年)(P.87)
- 『インターネット』(村井純著、岩波新書、1995年)(P.87)
- 『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』(梅田望夫著、筑摩書房、2006年)(P.87)
- 『「オバマ」のつくり方 怪物・ソーシャルメディアが世界を変える』(ラハフ・ハーフーシュ著、阪急コミュニケーションズ、2009年)(P.87)
- 『ツイッターノミクス TwitterNomics』(タラ・ハント著、津田大介解説、村井章子訳、文藝春秋、2010年)(P.87)
- 『街場のメディア論』(内田 樹、光文社、2010年)(P.87)
- 『ヤバいぜっ! デジタル日本 ―ハイブリッド・スタイルのススメ』(高城剛著、集英社、2006年)(P.87)
- 『官僚の責任』(古賀茂明著、PHP研究所、2011年)(P.133)
- 『TPP亡国論』(中野剛志著、集英社、2011年)(P.133)
- 『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』(中野剛志著、人文書院、2011年)(P.133)
- 『だからWinMXはやめられない』(インプレス、2003年)(P.147)
- 『地震と原発 今からの危機』(神保哲生、宮台真司ほかとの共著、扶桑社、2011年)(P.151)
電子書籍
津田大介氏メルマガ
- 津田大介の「メディアの現場」(P.32)
参考文献、参考サイトなど
- 総務省|我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算(P.10)
- Digital Universe(P.11)
- 国際交流基金 > 国際交流基金について > 情報センター、JFIC > をちこちMagazineオープン収録 ?3.11後の若者の行動から社会・文化を考える?(P.52)
- 博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所(P.62)
- 日経テレコン21:データベース検索サービス?新聞・雑誌記事から企業情報まで(P.63)
- 『コンテンツ・フューチャー』小寺信良・津田大介 松岡正剛の千夜千冊・遊蕩篇(P.83)
- SHARE FUKUSHIMA(P.100)
- 3.11以降の、世界各国のエネルギー政策 - Togetter(P.139)
- MIAU : 公式サイト(P.147)